判例事例

消費者契約である建物賃貸借契約における敷引特約の効力

◎(事案の概要)
  X(賃借人)とY(賃貸人)は、平成18年8月21日、マンションの一室を、同日から2年間、賃料1か月9万6000円の約定で賃貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結した。なお、本件契約は、消費者契約法10条にいう「消費者契約」に当たる。
  本件契約に係る契約書には、次のような条項があった。
  ①Xは本件契約締結と同時に、Yに対し、保証金として40万円を支払う。
  ②保証金をもって、家賃の支払、損害賠償その他本件契約から生ずるXの債務を担保する。
  ③Xが建物を明け渡した場合には、Yは以下のとおり、契約締結から明け渡しまでの経過年数に応じた額を保証金から控除してこれを取得し、その残額をXに返還するが、Xに未納家賃、損害金等の債務がある場合には、上記残額から同債務相当額を控除した残額を返還する。
    経過年数1年未満   控除額18万円
    2年未満   21万円
    3年未満   24万円
    4年未満   27万円
    5年未満   30万円
    5年以上   34万円
  ④Xは建物をYに明け渡す場合には、これを本件契約開始時の原状に回復しなければならないが、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗については、敷引金により賄い、Xは原状回復を要しない。
  ⑤Xは本件契約の更新時に、更新料として9万6000円をYに支払う。
  平成20年4月30日に本件契約が終了し、Yは保証金40万円から敷引金21万円を控除し、その残額19万円をXに返還した。
  Xは本件特約が消費者契約法10条により無効であると主張し、敷引金等の返還を求めた。
 (論点)
  消費者契約である建物賃貸借契約における敷引特約の効力
 (判決要旨)
  消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできないが、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものであるときは、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となる。
  本件では、消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は、賃貸借契約締結から明渡しまでの経過期間に応じて18万円ないし34万円のいわゆる敷引金を保証金から控除するというもので、上記敷引金の額が賃料月額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていること、賃借人が、上記賃貸借契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等の一時金を支払う義務を負っていないことなど判示の事実関係の下では、上記敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、消費者契約法10条により無効であるということはできない(最高裁平成23年3月24日第一小法廷判決)。

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